けんぞーのショートショート

けんぞー作のショートショートを掲載します

花火

窓の外で打ち上げ花火の音が聞こえた

健四郎は手に持った缶ビールを卓袱台に置き、窓を開けてどこで花火が上がっているのか確認したが、何も見えなかった。ただ打ち上げ音だけが空気を震わせ鼓膜へと届いた

「残念。何も見えんやん」

健四郎は窓を閉め、胡座をかいて缶ビールを一口飲んだ

最後に打ち上げ花火を見たのはいつだったか。健四郎は記憶を手繰り寄せた

「そうだ、最後に打ち上げ花火を見たのは中学生のときだったな」

脳みその中で生まれた言葉が口から吐き出された

あの時は健四郎も人並みに友達がいたものだが、高校へと進学して以来、齢三十になる現在までずっとひとりぼっちだ。男一人で花火大会なんて行く気にもなれず、十五年以上花火を見たことがない

健四郎は畳の上に無造作に置かれた鞄からスマートフォンを取り出し、LINEのアプリを起ち上げた

SNSには全く縁がなかったが、行きつけのソープランドの女の子がいつでも連絡を取れるようにとアプリをダウンロードしてくれた。LINEに登録してあるアカウントはその娘のものだけだ

何度か食事に誘うメッセージを送った。都合のいい日にちを後で連絡するね。いつもそう返事が返ってきた。しかしその都合のいい日にちとやらを教えてもらうことはなかった

でもつい彼女に会いたくなって決して安いとはいえない金を払って彼女に会いに行っていまう。店で会う彼女はLINEでのやり取りはなかったかのようにけろっとしている

それを咎めることもできず、帰り際にまた食事に誘う。彼女はまた都合のいい日にちをLINEするねと言う。ずっとその繰り返しだ

『元気??久々に会いたいんだけど』

健四郎は慣れないフリック入力で少し時間を掛けながらメッセージを送った。するとすぐに既読がついて返信があった

『けんちゃん、お疲れ様❤今週は出勤しないから、来週ならOKだよ』

健四郎はすかさず返信した

『よかったら今度花火でも見に行かない?お店で会うとかじゃなくて、普通に最初は友人としてでもいいから、そういう形で接していきたいと思ってるんだけど』

これは本音だった。もう何度も通ってるし、ソープ嬢とその客という関係から脱したいと思っていた

『そうか、残念だね…。そういうことなら仕方ないね。それじゃ、元気でね。また何かあったら連絡してね』

絵文字も付いてないそっけない文面が返ってきた

「やっぱりそうだよな…」

健四郎はLINEのアプリを削除して、そのまま打ち上げ花火の鈍い音に耳をすませた