けんぞーのショートショート

けんぞー作のショートショートを掲載します

不貞の代償

聡子の目の前にはベッドに横たわっている太郎の姿があった

2年前に脳梗塞を患ってから身体の自由が利かなくなり、ほぼ寝たきりになっていた。聡子はパートタイムの時間を減らし旦那である太郎の介護に勤しんだ

いま目の前にいる太郎は、白目を剥き、口を半開きにして苦悶の表情を浮かべていた。そして、下腹部から股間に広がる赤いシミが蛍光灯の明かりで毒々しく光っている

聡子は、冷静だった。逆手に持った赤い包丁を手にしたまま、コードレスホンを手に取った。そして110とボタンを押した

 

太郎は朝食を食べた後はずっと眠っていた。聡子も眠かったが朝食の後片付けをして久々に部屋の掃除に取り掛かろうとしていた

今日はパートも休みで太郎も眠っていたので、サボっていた掃除をすることにした

 

リビング、台所の掃除を終え聡子は太郎の書斎を掃除することにした。太郎からは仕事関係の書類など大事なものがたくさんあるからと入室を禁じられていたが、いまでは誰もその部屋を使っていない。太郎が倒れたのは二年前の冬。聡子が出先から帰ってくると台所で倒れていた

救急車で運ばれてすぐに処置が施されたものの右半身に麻痺が残ってしまった。それ以来太郎はベッドで寝ていることが多くなった

 

書斎に入ると部屋の中にはホコリと湿気が充満していた。室温は30度を超えているかもしれない。聡子は窓を開けて空気を入れ替えることにした

書棚をぐるっと眺めてみると仕事で使用していたと思われる資料がギュウギュウに詰められていた。その一角にアルバムが数冊収められている

開いてみると、40年前の写真が綺麗に貼られている。結婚前に撮った写真。新婚旅行に行った時の写真。子供ができなかったので夫婦二人きりの写真が多かった

最後のアルバムを開いてみると、太郎が会社の同僚たちと撮った写真ばかりのようだった。社員旅行や飲み会の際に撮影したものらしい

太郎は商社勤めで、家に帰るのも遅くこの時期は夫婦生活もすれ違いが多かった。寂しかったが、これも仕方ないと半ば諦めていたところが聡子にあった

アルバムを半分ほど眺め終わった頃、太郎が髪の長い女性とふたりで写ってる写真がお多くなった

浴衣を着てツーショットを撮っていたり、それだけならまだしも、太郎が女性の頬にキスをしていた。更にページを捲っていると、女性が全裸でベッドに横たわる写真が何枚も貼り付けられていた

 

目覚めた太郎の前にアルバムから剥いだ写真を突きつけた。写真には裸の女が喘いでいる様子が上から撮影されている

太郎はそれを見た途端に大声を上げて泣きだした。脳梗塞が原因で感情失禁の症状がありすぐに泣いてしまう。今回はこれまでで一番大泣きしている

「あなた、これは何?」

聡子は自分でもぞっとするほど冷たい声で言った

太郎は口をパクパクさせて何か話そうとしているようだが、嗚咽で声になっていない。聡子は埒が明かないと思った

「お昼ごはんにしましょう」

時計の針は12時を指していた

 

冷蔵庫から適当な食材を取り出し調理に取り掛かろうとした。まな板にはキャベツが乗っている。聡子はそれを切ろうと包丁を手にした。その途端聡子の中に衝動的な感情が渦巻いていたのを感じた 

聡子は包丁を手にしたまま、太郎のベッドへ向かった。太郎はまだ泣き止んでいない

太郎を見下すように立つと右手に持った包丁を逆手に持ち替えた。そして太郎の股間めがけて一気に刺した

痛みのせいか、まるで再生していたビデオを一時停止したように太郎の表情が止まったように見えた。しかし、聡子はその手を休めることなく刺し続けた

「わたしはずっと寂しい思いをしてあなたの帰りを待ってたのよ。それでも仕事だからしょうがない、わたしが家を守らなきゃとずっと頑張ってきたのに。あなたは外で女を作って楽しんでいたのね」

泣きながらそう叫んでいた

気がつくと聡子の両手は血まみれになっていた。我に返った聡子は股間を真っ赤に染め既に息をしていない太郎を見下ろした

「あなたが悪いのよ」

聡子はポツリと太郎の亡骸に向かって呟いた